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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)11722号 判決

原告

近畿交通共済共同組合

被告

株式会社エスラインギフ

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告に対し、金一九六万円及びこれに対する平成一一年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告に対し、金二四六万四〇〇〇円及びうち金二二四万円に対する平成一一年二月一九日から、うち金二二万四〇〇〇円に対する平成一一年一一月一八日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等(証拠により認定した事実については、証拠を掲記する。)

1(本件事故)

(一)  日時 平成一〇年一二月八日午前二時二〇分ころ

(二)  場所 三重県上野市荒木地内名阪国道上り車線(自動車専用道路)

(三)  加害車両 被告村上三千年(以下「被告村上」という。)運転の大型貨物自動車(岐阜一一け八六八七)

(四)  被害車両 藤川雅啓(以下「藤川」という。)運転の普通貨物自動車(大阪一三く七九三七)

(五)  態様 加害車両後部に被害車両前部が衝突したもの

2(原告の損害)(甲二)

被害車両時価額 二八〇万円(経済的全損)

3(保険代位)(甲三、弁論の全趣旨)

(一)  原告は、被害車両の所有者である大八運送株式会社(以下「大八運送」という。)との間で、被害車両について車両共済契約を締結していた。

(二)  原告は、右共済契約に基づき、平成一一年二月一八日、大八運送に対し、被害車両時価額二八〇万円を支払った。

二  争点

1  事故態様・責任・過失相殺

(一) 原告

(1) 藤川が本件事故現場高速道路の右側車線を走行していたところ、左側車線を走行していた被告村上が急に右側車線に車線変更をし、被害車両の進路前方に進入してきたため、藤川はこれを避けようとして急ブレーキをかけたが、間に合わず、加害車両後部に被害車両前部が衝突した。

(2) 右のとおり、本件事故は、被告村上が左側車線から右側車線に車線変更するにあたり、藤川が右側車線を走行してきているにもかかわらず、進路変更を開始し、藤川の進路を妨害したために発生したものである。

したがって、被告村上は、民法七〇九条に基づく責任がある。

(3) 被告村上は、被告株式会社エスラインギフ(以下「被告会社」という。)の従業員であり、本件事故はその業務中に発生したものである(争いがない。)から、被告会社は、民法七一五条に基づく責任がある。

(4) 本件事故態様に照らせば、過失割合は被告村上八割、藤川二割である。

支払った保険金二八〇万円の八割に相当するのは二二四万円である。

(二) 被告ら

(1) 本件事故は、加害車両が車線変更後約四〇〇メートル走行した後に発生したものであって、加害車両の車線変更は本件事故の原因ではなく、単なる追突時事故である。

(2) 本件事故の原因は、藤川の速度超過(時速一一〇キロメートル)及び前方不注視である。

(3) したがって、被告らに責任はない。

2  原告の弁護士費用 二二万四〇〇〇円

第三判断

一  争点1(事故態様・責任・過失相殺)

1  本件事故発生場所について

証拠(甲一、二、四、五、六の1ないし9、七の1、七の2の〈1〉、〈2〉、乙一、二、五、七、一〇ないし二九)によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故発生後、現場において、藤川及び被告村上から事情を聴取した警察官(三重県警察本部交通部高速道路交通警察隊)は、本件事故の発生場所は「三重県上野市荒木地内名阪上り二八・九キロポスト」、事故類型は「追突」ではなく「車線変更に伴う衝突事故」と認めた。

(二) 名阪上り二八・九キロポストは、中瀬インターチェンジの登り口と本線の合流地点付近である。

(三) 被害車両の損傷の部位、程度は、左前部への着力によりフロントバンパー、キャビンが大破し、キャビンインナー部及びフレームへ大きく波及し、左フロントサスペンションが破損したものであり、本件事故により自力走行はできなくなった。

(四) 加害車両の損傷の部位は後部右側であり、修理費見積額は八万八六九三円(消費税を含む。)である。

(五) 本件事故時、加害車両の速度は時速約八〇キロメートル、被害車両の速度は時速約一〇〇キロメートルであった(制限速度時速六〇キロメートル)。以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

なお、被告村上本人尋問の結果及び乙三、八(被告村上作成の説明書)、乙九(被告村上作成の自動車事故報告書)中には、〈1〉加害車両は、中瀬インターチェンジの登り口との合流地点の手前で走行車線から追越車線への車線変更は完了していた、〈2〉本件事故発生場所は、右合流地点の先の服部川大橋の中央付近(名阪上り二八・八キロポスト付近)であった、〈3〉本件事故発生時には、加害車両は左ウインカーを出して、追越車線から走行車線へ車線変更を始めたところであった旨の供述部分及び記載(以下併せて「村上供述」という。)があるが、被害車両は本件事故により自力走行ができなくなっており、被害車両は本件事故後、衝突地点付近に停止していたものと考えられ、警察官にとって右の事実及び車両運転手(藤川及び被告村上)からの事情聴取により、衝突地点を誤ることは通常考え難く、警察官が右衝突地点を誤認したことを窺わせる事情は見出せないことからすると、本件事故発生場所は、甲四(藤川作成の事故発生届出書)記載のとおりでかつ警察官の認識した三重県上野市荒木地内名阪国道上り二八・九キロポスト付近であったと認められ、村上供述は採用できない。

2  本件事故態様について

右のとおり、村上供述は本件事故発生場所について誤りがあり、ひいては、事故態様部分についてもそのまま採用することには疑問があるというほかなく、前記認定事実及び前記甲四によれば、本件事故は、被害車両が追越車線を時速約一〇〇キロメートルで走行していたところ、走行車線を時速約八〇キロメートルで走行していた加害車両が急に追越車線に車線変更をし(その原因は中瀬インターチェンジの登り口から車両が本線に進入してきたことにあることが窺われる。)、被害車両の進路前方に進入してきたため、藤川はこれを避けようとして急ブレーキをかけたが、間に合わず、加害車両右側後部に被害車両前部左側を衝突させたものであると認めるのが相当である。

3  右に認定したところによれば、被告村上は、自動車専用道路において走行車線から追越車線へ車線変更するにあたり、後続の追越車線を走行する車両の動静に注意し、その進行を妨げてはならない注意義務に違反して、漫然と車線変更した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づく責任があり、被告会社は民法七一五条に基づく責任がある。

4  過失相殺

右のとおり本件事故は被告村上の過失を主たる原因として発生したものであるが、藤川にも自動車専用道路の入口の合流地点付近においては、合流してくる車両のため走行車線を走行する車両が追越車線へ車線変更することがあることは予測可能であるから、前方を走行する車両に対しての注意が不足していたものといわざるを得ないこと、制限速度を四〇キロメートル超過して走行していたことにおいて過失があるから、これらの事情を総合すると、三割の過失相殺をするのが相当である。

車両時価額は二八〇万円であるから、その三割を控除すると、一九六万円となる。

二  争点2(原告の弁護士費用)

原告が車両共済契約に基づく共済金の支払による代位により取得する請求権の範囲は、支払額を限度とするものであり、右を回収するための弁護士費用は含まれないから、原告の弁護士費用の請求は理由がない。

三  よって、原告の請求は、一九六万円及びこれに対する共済金支払の日の翌日である平成一一年二月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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